本学生命環境科学研究科、環境科学専攻の細谷隆史准教授と宮藤久士教授の研究グループは、木質バイオマス中の主要な高分子成分であるリグニンが、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドと呼ばれる新しい反応媒体中でO₂によって酸化されることで、高選択的に低分子化されることを見出しました。この新しい反応媒体中で、リグニンは低分子芳香族化合物であるバニリンへと変換されます。バニリンは香料・医薬品・ポリマー材料の原料として利用することができる、現代化学工業におけるプラットフォームケミカルの1つです。
リグニンからのバニリン生産はこれまでも広く検討されてきましたが、収率の低さや過酷な反応条件(170 ℃程度)が問題にされてきました。本研究で見出された反応系は、120℃という温和な条件で、従来のプロセスの3~4倍のバニリン収率を実現するという画期的なものです。また本研究は、リグニンからのバニリンの生成メカニズムの検証も行い、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドは、リグニンから生成するバニリン前駆体の副反応による不均化(参考図中に点線で示された反応)を抑制することで、高いバニリン収率を実現することを見出しました。
(参考図)木質バイオマス中のリグニンがアルカリによる加水分解とO2による酸化分解を経てバニリンへと変換される
これらの研究成果は、2020年5月20日にイギリスの王立化学会の学術誌であるRSC Advanceに公開されるとともに、同学術誌の2020 HOT Articleに選ばれました。(2020年6月15日現在、同学術誌に掲載されている2453論文中35論文がHOT Articleとして選ばれています。)
これらの研究は、国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所との共同で行われ、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)次世代農林水産業創造技術のSIPリグニンの課題内で実施されました。また、JSPS科研費17K18008の助成を受けました。
Selective production of bio-based aromatics by aerobic oxidation of native soft wood lignin in tetrabutylammonium hydroxide
Takashi Hosoya, Kohei Yamamoto, Hisashi Miyafuji, Tatsuhiko Yamada
DOI: 10.1039/D0RA03420G.